以前、『行ってきたよ!』レポート を上げた本屋さん・B&B。
この本屋さんでは毎日なにかしらのイベントをやっているというのが大きな特徴のひとつで、それを知ったときから、イベントに参加してみたいとは思っていました。
なので、マメにイベントスケジュールをチェックをし続けて、数ヶ月。
日時的にも、内容的にも『これは!!!』と思えたのが、この、桝アナの書籍出版記念に行われるイベントでした。
大学院でアサリの研究をしていた桝アナと、フジツボの研究をしている倉谷さんという方がトークショーをするというものです。
完全にミーハーな気持ちだけで前売りを買い、イベント日を指折り数えながら待っていたのでした。
イベントがどんな内容になるのかなんて、まったく予想もせずに…。
桝アナはやっぱりイケメンだった
7月26日。家事をさくさくと終わらせて、ガッツリとメイクをして、下北沢に着いたのがイベント開始5分前。
うん…メイクを頑張りすぎちゃったんだね…。
まぁ、なんとか時間ギリギリに滑り込み、ドリンクの列に並んでいると、桝アナがご到着。ふつうにB&Bの入口ドアを開けて入ってきてました。B&Bって、出演者用の控え室とかはないのかな???
ちなみに、イベント開催時のB&Bは店舗の半分ほどをイベントスペースとしてセッティングし、残り半分は通常通り営業しているかんじでした。
客層は意外にも男性陣多し
チケット購入時に思っていたのが『これ、桝アナ目当ての女子が多いんだろうなー女子ばっかりだろうなー』ということでした。(だからガッツリとメイクしてたんだよね…。女性は、女性の目線に耐えるためにメイクをするんだと思うんだ。)
…が。
当日、客席を見回してみると…あれ…?男性が多い…。しかも、私と同じくらいか、むしろその上の層の方々が多い…?と、感じました。
『なんでー?なんでー?』という疑問は、イベント序盤での桝アナと倉谷さんのトークにより解決します。
「アサリやフジツボに興味のあるひと」「なんらかの生物の研究をしているひと」「海洋生物に詳しい小説家」「奇譚クラブでのマニアックなガチャガチャを作っているひと」…そんなひとたちが、ナチュラルに客席に居たのです。
これたぶん、客席のほうだけでトークをまわしても、すごく面白い内容になっていたと思うんですよね。それくらい、面白そうな方々が参加されていました。
『私は無脊椎にしか興味がないので、アルパカのガチャガチャはいらないと思っていたんです』
客席に奇譚クラブのガチャガチャをつくっている方がいたことで、トークショーはその話題から開始されました。
ガチャガチャ好きなひとなら絶対に目にしたことがあると思うんですけど、奇譚クラブは ネイチャーテクニカラー というシリーズを展開しています。
これがなかなかにマニアックなラインナップで、過去にはフジツボのシリーズを作ったことがあるということで、この日、関係者の方が参加されていたようです。
…で、このフジツボシリーズの作成に至ったエピソードというのがものすごく面白かった。
このアルパカのシリーズをもらった倉谷さん。でも『私は無脊椎にしか興味がないので、アルパカはいらないな…』と思ったそうです。
そうは思いながらも、胴体が左右に分割されていて、分割部にマグネットが入っていることでメモが挟める仕様になっているアルパカが便利で使っている時に『このマグネット部分にイラストは描けるのだろうか?』と思い立ち、奇譚クラブへ問い合わせ、『描ける』という回答をもらったときに、『フジツボの断面図で作ってほしい』という依頼をして、フジツボシリーズ の作成に至った…とのこと。
『無脊椎にしか興味がないので…』と淡々と話す倉谷さんも面白かったし、マグネットをそういうふうに利用するフィギュアっていうのも興味深かったし、そのあとにアサリの試作品(もうすぐ発売になるらしい?)を見て『この蝶番の部分、完璧ですよ!』と大興奮する桝アナも楽しかったです。
これ、イベント開始して10分程度の出来事だったんですけど、あまりに濃すぎて『私はこの場所に居ていいのか…?』と不安になりましたね…。
ちなみにアサリのフィギュアを絶賛する桝アナに、倉谷さんが『カメノテのフィギュアもね、潮がひいた後の少し湿っている感じが出てて、すごいんですよ』と自分の萌えポイントを語っていたのも最高でした。
世界一危険な漁師
そんな濃い始まり方をしたこのイベント。
この後も飄々とした雰囲気でさらっと濃いトークを展開する倉谷さんに、桝アナがセーブをかけつつ進んでいきました。
この奇譚クラブフィギュアのマニアックな萌えポイントトークに続いては、『干潟っておもしろいですよね』という話。フジツボの前にはゴカイの研究をしていた倉谷さんは『冬は潮がひくのが真夜中だから、真夜中の海に行って調べていた』というエピソードを展開。その地味で大変な研究に同調する桝アナ。
ゴカイからフジツボへ興味がうつった倉谷さんは、当時はフジツボの分野でいちばん研究が進んでいたイギリスへ留学をしたそうです。イギリスでは大学の例え話に、ことごとくフジツボが使われたそうです。それが海洋の授業とかではなく、統計の授業とかであっても、ふつうにフジツボが出てくる…と。
イギリス、どんだけフジツボなの…。
ちなみにアサリについての研究は、フランスと韓国が進んでいるようです。
イギリスではカメノテ(フジツボの一種?)を食べるのが一般的なようで、とりわけ『波が強い場所にあるカメノテは味が濃い』とのことで、そのためのカメノテ漁師がいるそうです。
カメノテ漁師たちはおいしいカメノテのために断崖絶壁での漁を行うために、年間で何人か亡くなっているのだとか…。『世界一危険な漁師と言われてます』と淡々と説明する倉谷さん。
しかもこのカメノテ漁師は世襲制だそうです。このおうちに生まれちゃったら大変だな…。
淡々としながらも倉谷さんのフジツボトークはまだ続きます。
夏になると某巨大掲示板などで囁かれる、『海岸で足を切ってしまった。数日しても治らなくて不思議に思って病院でレントゲンを撮ったら、ヒザの裏にフジツボがびっしりはえていた…』という都市伝説を『ありえません!』とバッサリ斬ります。
そしてフジツボが不当に嫌われていることを訴えつつ、海中でエサ(プランクトンなど)をとらえるときに出てくる萬脚という部分がとても美しいことを説明する倉谷さん。動画を見つけましたが サムネの好みが分かれそうなのでテキストリンクだけはっておきます。
ちなみに
フジツボの萬脚の動きは実に美しい
という言葉を、かのチャールズ・ダーウィンが残しているそうです。
ダーウィンは8年間、フジツボの研究だけをしていたとのことで、毎日毎日フジツボを家で解剖するダーウィンの姿を見ていたダーウィンの次男は、父親というものはみんなフジツボの解剖をしていると思い込んでしまい、友達の家に遊びに行った際に『きみのお父さんは、どこでフジツボするの?』と聞いたそうです。ダーウィンはんぱないなー!!!
『そのシャリシャリはね、私の先生が考えたんです』
このトークイベントは、倉谷さんが用意した(と思われる)スライドをもとに進んでおり、このあたりまではフジツボメインのスライド構成になっていましたが、後半は桝アナの領域であるアサリにシフトしていきます。(でも、倉谷さんはアサリについてもかなり詳しそうに見えました。)
桝アナはアサリのスライドを見ながら、『アサリの年齢は、殻の部分が年輪のように1日に1層形成されていくので、その数を数えて調べるんです。この年輪をカウントするために、樹脂にアサリを閉じ込めた後、その断面を完璧に平らな状態になるまでヤスリでシャリシャリするんです…それがもう本当に大変で…』というエピソードを披露。
それに対して『そのシャリシャリね…うふふ…私の先生が考えたんです』と話す倉谷さん。そして、その先生の論文なども紹介…していると、桝アナが『あ!この名前覚えてる!このひとの論文、めちゃめちゃ読みましたよ!!!うわー、本当にすごい読んだ…えっ、倉谷先生の教わってた方なんですか!?』と、驚きを隠せない状態に。
それに対して『はい。今でもお歳暮とか贈ってます』と答えた倉谷さんに『日テレのアナウンサーが本当にお世話になったとお伝えください』とお願いする場面も。
そのあともアサリトークは続き、500年以上生きていたと思われる「明(ミン)」と呼ばれたアサリ の話なども。
「フジツボだから」あまりお金がもらえない
トークショー後半ではフジツボやアサリのガチトークから話題の中心は少しずれていき、研究費の話など。
アサリについては、年々アサリの数が減少していることに危機感を覚えた政府によって研究が推進されているらしく、それなりの研究費が出ていたようですが『フジツボは…あまりお金をもらえてないですよね…?』と振る桝アナに対し、頷く倉谷さん。
『フジツボが貼り付くために出すセメントっていうのは、世界中で研究者たちが真似しようとしてるんです。水中で有効で、酸にも強く、深海(高温)の温度にも耐えられるセメントなので。でも、「フジツボだから」研究費はあんまりおりません。大事な研究のはずなのに、おかしいですよね…』
この言葉には考えさせられるものがありました。内容が怪しい研究にものすごい金額が投入されていたことが話題になっていたりしたことが思い出されたりしたから、余計に。
このイベントによって、倉谷さん、そしてフジツボに魅了されはじめていた人間としては、日の目を見てほしいなぁ…という気持ちでいっぱいになりましたね…。
とりあえず倉谷さんの著書は買おうかなぁ、と思ってます。
この後は割とダークな内容だったというか、ネットに書くものじゃないよなー…というような話も多かったので省きますが、とにかく濃い内容でした。
濃いんだけど、まったく知識のない私でも興味を持って、納得しつつ聞ける内容。本当に面白かったです。
「アサリ vs フジツボ どっちがかわいい?」
最後の最後には、桝アナと倉谷さんの対談を聞き終えて、どっちを『かわいい』と思ったか、参加者が判定。
…結果、フジツボ大勝利でした。
今日のエントリの大半がフジツボの内容なことからも推測できるかと思うんですが、倉谷さんのフジツボトークが本当に楽しかった!意外なところに球を投げつつ、きちんと回収していくかんじ。それを愛にあふれる言葉で展開していくから、聞いているほうも興味が持てるわけです。
この日のイベントに参加して、研究者さんはすごいなー、というのはもちろん、猛烈に羨ましいと思う気持ちも感じました。
ここまで熱く語れる、愛をかたむけられる対象がある…それって本当にすごいことだと思います。だって私にはそういうものが全くないから。適当に世の中を渡ってきただけだから。
思えば、義務教育期間っていうのは、こういう『情熱を傾けられるもの』を見つけて、夢中で追いかけるためにあるのかなぁ、なんてことを思いました。
凡庸な言い方だと思うけど、打ち込めるものがあるひとは本当に輝いていて、美しいなぁ、と。
ひとつのものについて語ることができるというのは、なんて魅力的なことなんだろう…と思いました。
35年は無駄にしちゃったかもしれないけど、私もこれからの人生でそういうものを見つけられるかな?見つけたいな、と感じました。
そして、娘が打ち込めるものを見つけられるように育てられればなぁ、というのも思いました。
あんまりね、親のできなかったことを託すようなことはしたくないんですけど。
…うーん、でも、世渡りだけ上手い子になるってのは、それはそれで楽しいのかもしれないけど、それこそ30過ぎたくらいの時に、今の私と同じことに気づいちゃったら可哀想かもなぁ、というのも思ったので。
ミーハーな気持ちで参加したのに、生き方まで考えてしまったという、そんなイベントでした。
ちなみに、トークショーの後のサイン会にも参加したんですが、1分ほどの会話ででも桝アナの人当たりの良さと、頭の回転の早さは感じられましたねー。
フジツボポーズでツーショット写真を撮ってもらえたりもしましたし。(家宝にします。)(スマフォだけでなく、いろんなところにデータコピー済。)
私との会話ではないんですけど、そのサイン会の時に『自分は倉谷さんのように研究の道をきわめられなかった分、世の中にこういうことを伝えていこうと思っているんです』というような発言には、それもそれで凄いことだなぁ、と思いました。
伝わるといいなー。そして、先述の、研究費の話とかが改善されるといいなぁ、と感じた次第です。