「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」で廃墟に思いを馳せる

『廃墟』……それは、中二マインドを刺激するマジックフレーズ……。
四十路を前に、ふだんは大人らしい振る舞いをしようとしている私でも、このマジックフレーズにはちょっと勝てなかったですね……。

廃墟の美術史

そんなわけで、行ってきました。
1/31まで松濤美術館で開催されている「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」
ちなみに、初・松濤美術館であります。(本日の『だからどうした』情報)

数年ほど前に『廃墟写真集』なんてものが密やかにブームになった記憶も新しかったりしますが、実は西洋美術では『廃墟』というのは古の昔から定番のモチーフなのだそう。
……ということで、

なぜ人々は、流れる時間のなかで滅びた、またはいつか滅びてしまう、遠い昔のあるいは遠い未来の光景に、惹きつけられるのでしょう。
この展覧会では、西洋古典から現代日本までの廃墟・遺跡・都市をテーマとした作品を集め、これら「廃墟の美術史」をたどります。

こんな趣旨で展覧会が開かれることになった模様。

この展覧会は6つのパートに分かれています。(以下は本展覧会の作品リストから引用。作品リストはPDFファイルです)

  1. 絵になる廃墟(西洋美術における古典的な廃墟モティーフ)
  2. 奇想の遺跡、廃墟
  3. 廃墟に出会った日本の画家たち(近世と近代の日本の美術と廃墟主題)
  4. シュルレアリスムの中の廃墟
  5. 幻想の中の廃墟(昭和期の日本における廃墟的世界)
  6. 遠い未来を夢見て(いつかの日本を描き出す現代画家たち)

パッと見は難しそうですけど、まぁ要するに、かなり昔の西洋美術作品から現代日本の画家までを時系列でつなげていくような展示です。
ちなみに1〜3の作品は2階での展示、4〜6は地下1階での展示でした。
大きな美術館ではないので1時間弱もあればすべての作品をじっくりと見ることができると思います。
はい!気になったひとは1時間くらい捻出して神泉へ行こうね!
個人的には地下1階の展示のほうが断然おもしろかったです!!!

廃墟は西洋美術の定番モチーフということでね、昔の作品では定番の型があるんですね。
後方に廃墟(静)、前方に人間や動物(動)……みたいな。
そのバランスってすごく分かるし、コントラストとして正しいとも思うのね。
ただ、あまりにもその構図が多いのは飽きるな……って……思ってしまって……エッチング作品も続いてたりしたし……。
エッチング作品ね〜。細かいところまでじっくり見るのは楽しいんですけどね〜。

廃墟の美術史


ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 《古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点》

個人的には、「廃墟に出会った日本の画家たち」のパートで目新しさが出てきたかんじかな。
廃墟が描かれた西洋画を日本画家がアレンジを加えつつ模写しているものだとか、『掛け軸に描かれた廃墟』、『近代産業から生まれた残骸としての廃船』だとかの飛び道具が出てきまして。
日本画家、やるじゃん〜〜〜(何目線?)って思いました。

その「日本の画家たち」パートを終えて、地下1階の第2会場へ移動。
『えっ、これ廃墟描かれてる!?』というほど人物が前面に大きく描かれた大胆な構図の絵(たしかポール・デルヴォーの「女帝」)に度肝を抜かれて「シュルレアリスムの中の廃墟」パートがスタート。
デルヴォー作品おもしろいね。二度見しちゃうような構図の作品が多いし色使いもすごく気になる感じ。
これもデルヴォー作品。『廃墟』って言葉から連想されるような退廃的なものじゃなく、もっとファンタジックな何かを思わせる。

廃墟の美術史


ポール・デルヴォー 《 海は近い La Mer est proche》

デルヴォー作品が続いた後に、どこか暗い夢のような「幻想の中の廃墟」パート。ここは日本画家の作品。
このパートは好みが分かれるのかな、と感じました。
昭和期の作品群はどうしても戦争を思いながら見てしまって深読みしてしまいそうになるし、私は深読みが苦手マンなので、結局は意図をつかみきれないんですよね。
そこが自分には合わなかったですね。面白かったけど。

そして、その流れで最終パートの「遠い未来を夢見て」
ここが本当に面白かった〜!!!
特に元田久治さんの作品。この方は、日本(東京?)のランドマークを廃墟に変える作品を多く発表しているようで、現在の自分が見知っている場所がリアルな廃墟になっていることに鳥肌が立ちました。

廃墟の美術史


元田久治 《 Indication: Shibuya Center Town》

元田久治さんの作品、特に東京駅が廃墟と化した作品が印象的でしたね。
廃墟は廃墟なんだけど、絶望とか悲しみを感じるわけではなくて、ただ朽ちただけなんだな……っていう気持ちになりました。
でも考えてみたら、この展覧会の作品ってほぼすべてがそういった感じだったのかも?
「廃墟の美術史」という言葉から想像していたものは、もっとダークサイドだったり、中二病っぽさだったり、重い空気だったりしたけれど、実際はそうではなかったです。
廃墟っていうのは、私たち人間の重ねた月日の結果なのだな、と。
破壊っていうイメージよりは、創造の最終形態なのかなぁ、と思いました!

ちなみにこの展覧会、撮影可なのは冒頭の1作品だけです。
(このエントリでアップしている作品は展覧会のページからお借りしました)
ゆえに、SNS等で展覧会の様子が上がってくることはあまりないと思うので、気になったらぜひ行ってみてください〜。回し者じゃないよ〜。

廃墟おもしろいな〜って思ってkindle unlimitedで検索してみたら、廃墟写真集が対象に入ってました。
あとで読んでみよ。