ムットーニ、それはからくり人形たちがつくりだす心象風景

自分はとても勘が良いと思っています。
ただし、仕事では発揮されない勘の良さ!
…じゃあどんなものなのかというと、『自分好みのものを見つける勘の良さ』であります。

 

そんな勘の良さで、また、素敵なものを見つけてしまったのです。
その名も「ムットーニ」。

ムットーニ・パラダイス

 

GW中になんらかのインプットをしたいな〜、と思っていた時にたまたま見つけた「ムットーニ・パラダイス」
これが大当たりでした。
ポスターをパッと見て心惹かれたのはあるものの、足を運んだ最大の理由は『会場が世田谷文学館だったから』。
以前、同会場で行われたクラフト・エヴィングの展示 がとても良かった記憶があって、またこの会場でのイベントに行きたいな〜と思っていたのです。
しかし結果としては、会場の良さはもちろんこと、展示もめちゃめちゃ良かったんです!!!!!

 

 

「ムットーニ」とは!

さて、ここで「ムットーニ」について、世田谷文学館のサイト から引用。

自動からくり人形作家「ムットーニ」こと武藤政彦。人形と装置の多様な動きに合わせ、音楽、光、本人の語りなどが重なり合いながら物語や世界観が表現されるその作品は、他に類のないアート作品として多くの人びとを魅了しています。

そうです。からくり人形です。自動で動く。
………あ、いま、『からくり人形』って言葉から子ども騙しのものを連想したでしょ?でしょ?
ところがどっこい(←昭和的フレーズ)完全に大人向けの展示でした。
会場に子ども連れの方は何人かいたけど、正直、『子どもが楽しめる展示は半分以下くらいしかないのでは…?大丈夫か…?』と大きなお世話なことを思ってしまいました…。

 

 

「ムットーニ・パラダイス」の注意点!!!

展示されている自動からくり人形たちはタイムテーブル通りに、それぞれ5分程度の物語を会場のあちらこちらで紡ぎます。
展示エリアはエントランス部分を含めて7エリアに分かれていて、各エリアでエリア内のすべての展示が15分〜30分で一巡するように調整されています。(エリアごとのこの時間調整をしたひと、ほんとすごいと思う…)
エントランス部分と最終エリア(エリア6)はタイミングによっては15分弱の空白ができるので、タイムテーブルを見ながら他のエリアで調整するのが吉です。
私は8割弱の作品を最初から最後まで見て、1時間半ちょっとの鑑賞時間になっていたので、全部をしっかりがっつり見たい場合には2時間以上は見積もっておいたほうがいいかも?

 

あと、行くときはスニーカーで!!!
エリアごとに椅子も用意されているものの、たぶん数は足りないです。平日に行った私のときですら足りてなかったから。
素晴らしい作品揃いとはいえ、立って鑑賞し続けなきゃいけないのは結構キツい。
少しでも足がラクになる靴のほうが絶対いいです。足が痛くて満足に観きれないまま離脱、とか悲しすぎるからね!!!

 

 

まるで映画のような

前置きが長くなりましたが、展示の中身について。
なんども書いてきた通り、からくり人形の展示です。
でも………たとえば 漱石の「夢十夜」や中島敦の「山月記」を原作としていたり、ライティングや装置転換に含みがあったり、ジャズやラテン音楽が使われていたり………たぶん、『からくり人形』と聞いて想像するのとはまったく違ったものが、ここにはあります。

 

PCのモニタ程度の大きさの舞台で繰り広げられる5分弱の世界ながら、観終わった後の満足感は映画を一本観た後のそれに近い。
それくらいはっきりとした世界観が各作品で確立されているのです。
そして、各作品の世界とはまた別に、根底に「ムットーニ」というベースがある………そう感じました。

 

ちなみに私のツボに見事にハマって2回観てしまったのが「題のない歌」。
これは萩原朔太郎さんの詩が原作になってます。青空文庫で読めるのでリンクはっておきます。(かなり下のほう)
うら寂しく酒を飲んでいる男のもとへ謎めいた女が現れて、そこから大胆な装置転換があって…という大仕掛けもさることながら、女を見る男の細かいしぐさや、ゆらゆらとこちらに向かってくる『赤錆た汽船』の様子がとても良いんですよ…!
1回目はただひたすら呆然と、そして2回目は食い入るように観入ってしまいましたね…。

 

他には、最後の仕掛けが地味ながら印象的な「眠り」(これは村上春樹の作品が原作)、ジャングルが華やかなステージに転換する「ジャングル・パラダイス」、『エリア4』で展示されているお酒モチーフの6作品あたりが好みでした。
お酒のボトルがぱかーっと開いて、ドラキュラや妖艶な女性が踊るというからくりには『こんなのもあるのか!』と新鮮な気持ちに。

 

さっき『映画の満足感に近い』と書いたんですけど、中でも、デビッド・リンチ作品の雰囲気に通じるものがあるのかなー、というのを展示を振り返りながら思いました。
誰の心の中にもきっとある、どこか謎めいていて、妖しくて、少しわくわくするような心象風景。
だからこそ、原作があっても、人それぞれで解釈できる作品なのかなぁ、と。
そういう作品なので、先述の通り、子どもにはちょっと楽しみづらいのかな?という気はします。

 

 

「たまたま確実に動いているだけ」

あまりの世界観に圧倒されて忘れがちですが、作品はぜんぶ自動のからくりなんですよね…。
絶妙な間合い、タイミングぴったりのBGM、大胆な装置転換………裏側でいったいどれだけの仕掛けが動いているのか、気にはなりつつ、まったく想像もつかない………。
展示が良すぎて思わず買ってしまった図録を読むと、

ある時メカに詳しい知人に、私は作品の裏側を開けて見せたことがある。
すると彼は腕組みをし、「これはたまたま確実に動いているだけ」。

と書いてあったりして、いったいどんな『たまたま』がそこに在るのか…と、ますます気になりますね…。ほんとタイミングとか完璧だからね…。
私はメカが分からないからこそ、作品の世界に没頭できたのかもしれない…?

 

ちなみに、上記は前書き的な部分からの引用ですが、この後に続く文章がとても自分には響いいたので、気になる方は買ってくださいね!
8割近くがカラーで、丁寧につくられている100ページちょっとの本です。1500円という値段は安いと思います。

 

 

百聞は一見にしかず

言葉を尽くしても、自分にムットーニの魅力を説明しきれる気がしないので、気になった方はとにかくこの動画を見てみてくださいね!

[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=cjVSgnPVVXA[/youtube]

4年前に阪急?で展示をしたときのプロモーション動画っぽいです。
動画で使われている作品も展示されていましたが、個人的に好きだと思った「題のない歌」「ジャングル・パラダイス」『お酒シリーズ』は、この展示の後につくられているっぽいので、今回の展示は、この動画を上回るものだと思っていただければ。
作品を見ただけで製作時期が想像出来る程度には、近年の作品は仕掛けの複雑さも、ミニチュアの細部へのつくりこみも良いな、垢抜けてるな、と思いました。

 

 

展示は6月25日まで。
展示期間の前半と後半とで、一部、展示作品が変わるみたいなので、できればもう一回行きたいです。
土日なら作者ご本人による案内つきのギャラリートークがある みたいなので、このあたりを狙うと満足感高いんじゃないでしょうか。私は狙う。
ちなみに月曜日は休館日です。(これは自分の備忘録として書いておきます)

 

激推しな展示であります!!!!!